父の日
今週のお題「おとうさん」
なぜか今でもはっきりと覚えている父との思い出がある。
父が帰宅し、晩御飯を食べていた。スーパーで買った、値引きされた海鮮丼だった。
僕は父が麦茶を取りに行っている隙を見て、海鮮丼のすべての刺身の裏側に大量のわさびをつけた。
面白いと思ったのだ。
しかし、何も面白いことは起きなかった。温厚な父が珍しく怒っていた。
「せっかくのおいしいものをまずくするな」
当時の僕はなんだか、やりきれない気持ちだった。子どもが父親を、家族を笑わせたくてやったことにそんなきびしいこと言う必要もないじゃんと思った 。
正直今でもあのときの父は、単にいらいらしていただけだと思う。
ただ、いらいらしてたからこそ、普段食べられない海鮮丼を安く買え、食べることができる瞬間を楽しみにしてのだろう。同じことを、休みの日に食べに行った回転寿司屋でやってもきっと怒られなったとはずだ。
このちょっとしたトラウマのような思い出は、今では
「人が大事にしているものを、茶化すネタにしてはいけない。」
「人が大事にしているものは、その人が置かれている状況によって変わる。」
「自分では予想もしなかったものが、大事なものだったりする。」
という学びとして昇華されている。
世の中、意識せずにワサビを塗ってしまう人も、悲しませようとしてワサビを塗る人もいる。日々生活していると、思わぬところにワサビが仕込まれていて、ツーンと来ることが多い。
でも、その人が大事にしているものだけは、ちゃんとそのままにしてあげられるような暮らしになったらいいなと思う。
ひょっとすると、父の教えは
「ワサビを取り去ってあげられる人間になりなさい」
ということだったのかもしれない。
小学生の自分にはさすがに難しいよ、と思うけどそんな教訓をくれた父へ感謝したい。
初任給の使い道、どうするか悩んでいたけど、最大限の敬意をこめて、海鮮丼をご馳走しよう。おいしいものをおいしく食べてもらおう。
「この海鮮丼が成長の証です」というのは、60近い父にはさすがに難しいかもしれないけど。